良案? 愚案?


ワクチン用冷凍庫の温度管理の不具合が幾つか伝えられる中、埼玉県北本市が導入したワクチン冷凍庫の温度管理システムの斬新さに賛否の嵐が。 冷凍庫の室温表示部分の前にWebカメラを設置して、表示される温度をモニターして、何か異常が発生したらアラートを投げる仕組み。表示される温度数値を認識する位のプログラムは、そんなに難しくないだろうし、そこから期待値の範囲を超えたらアラートを設定されたメールアドレスに投げる位のプログラミングだって難しくない(時分は多分もう書けないけれど-笑)。Webカメラにしても、PoE(Power over Ethernet)対応なら、電源をわざわざ引かなくてもEthernetのポートがあれば良いわけで、本当にモニター用のカメラを冷凍庫の前に置くだけで事実上完成。

このアイデアを時代後れと笑う人も多いみたいですが、これって「コロンブスの卵」だと思う。仮にもっと「綺麗な形」で実装しようとすると、まず冷凍庫の内部に温度センサーとかモニター回路を入れないといけないわけで、それは元々そう言うオプションがあれば別だけれど、無い場合には対応するのは大変。さらに、複数のメーカーが全国で納品しているだろうから、そのメーカー毎に仕様が異なる事による互換性の欠如や取り回しの繁雑さから導入が大変なることもあるだろうし。それに比べて、この方式の優れているのは「外部に室内温度表示している冷凍庫なら、全てに対応可能」な所で、しかも設置する手間はデバイス(Webカメラ)を設置して、温度表示部分が映るようにすることだけ。この仕組みを見た後では「そんな簡単なこと」と思う人が殆どだろうけど、知らずにこう言うアイデアを形に出来るのは、エンジニアの端くれの自分としては凄いと思う。

エンジニアの悪い癖で、往々にして「綺麗なシステム」を作ろうとするんですよね。勿論、今後の冷凍庫にはモニター機能付きの製品も出てくるだろうけど、必要なのは「今、確実に、簡単に、安価で実現出来る方法」な訳で、このWebカメラ方式はそれら全てを満足する商品だと思う。これって、ちょっと見方を変えると街角などにある「監視カメラ」と同様なんですよね。ただ、監視カメラは主に人の流れを録画することが目的で、中国でやっているような顔認識まで導入して個人を特定しつつ行動管理するレベルのものでは無い。でも、この監視カメラは「温度表示」という凄く限定されたシンプルな対象だけれど、それを実行しているわけで、機能としてはかなり「洗練されている」と思うなぁ。冷凍庫にセンサーやモニター機能を入れろというのは、監視カメラではなく通行人一人一人にGPSセンサーを持たせろ、と言うようなことで、どちらが大変でどちらが効率的かは言うまでも無い。

自分なりにエンジニアとしての格言みたいなのが幾つかって、その代表的なものに「シンプルイズベスト」と「神は細部に宿る」というのがあるんですが、このWebカメラ方式はどちらも満足していると思います。Webカメラ一つだけで必要な要求を満足させている点で「シンプルイズベスト」だし、管理温度を一定時間毎にモニターするという必要最小限の機能に特化している点で、「シンプルイズベスト」とともに、最も基本的な要求仕様をピンポイントで満足している転で「神は細部に宿る」を実現していると思うし。エンジニアの端くれとして、ちょっと嫉妬すら感じる製品だと思う。

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